海ミハ車両区

宮原太聖(Miha)の雑記帳。おおむね週1回更新です。

マストドンにおけるLTLとFTLの意味と分散への効用

最近、なんかあちこちで、マストドンのローカルタイムライン(LTL)や連合タイムライン(FTL)の意義に関する議論が盛り上がっているようで。

……盛り上がっているというよりは、定期的に再燃するよねって感じもするわけですが。

なんか、皆さんのご意見を拝読する限り、どうも、私の意見というのは少数派なようです。なので、私の意見をちょっと記事にまとめました。

 

 私は、物事を考える時に、まずは、歴史を振り返って、「そもそも、なんでこんなのが世に出たのか」「そもそも、これはどういうものなのか」って辺りを考えたくなるタイプの人間ですので、まずは、その辺りを軽く押さえていきましょう。

 

マストドンは、2016年10月6日に、オイゲン・ロチコ氏によって作られました。

なぜマストドンを作ったかについて、オイゲンさんは、以下のようにお答えになっています

 数年前、友人から連合(federated)ネットワークについてのアイデアを聞かされた。そのときにはピンと来なかったが、昨年5月あたりからTwitterは些細なことだけど不人気な改変を始め、昨年いっぱい間違った判断を下し続けた。そこで当初のアイデアを思い出し、GNU Socialを発見した。当初はコントリビュートもしていたが、コードを読んで、自分自身で書いてみようと決めた。Twitterのようなものをユーザーに取り戻そうと考えた。TweetDeckにインスパイアされたユーザーインタフェースもつけて。

 

Twitterがうまくいっていない原因を考えているうちに、それはTwitterだけが悪いのではなく、営利企業であり、中央集権的な会社であるためだと思い至った。広告のやり方、マネタイズ戦略についてはユーザーと運営企業の考えに隔たりがある。

 

ならば脱中央集権的な仕組みにしてみてはどうかと考えた。Twitterには巨大なデータセンターが必要だけど、マストドンなら1、2台のサーバで済む。

 

コミュニティー内のルールも自分たちで決められる。日本のルールをシリコンバレーのルールにしばられる必要はない。それはドイツでも英国でも同様だ。

www.itmedia.co.jp

 

非常に論理的かつ明快な説明だと思います。というか、「マストドンとは何か?」という問いに対する答えは、全てこの言葉に集約されているのではないでしょうか。

つまり、オイゲンさんとしては、Twitter社の方針に問題を感じていて、Twitter社による中央集権的なTwitterへのアンチテーゼとして、脱中央集権的なTwitter的なSNSとしてマストドンを作ったということのようなんですね。

 

で、おそらくここで最も重要なキーワードが「脱中央集権」で、おそらく原文、decentralizedなんじゃないかと思います*1。centralized(中央集権)の頭に否定を意味する冠詞deが付いています。

私は英語が苦手なので、きちんと公式の文章追えてるわけではないのですが、おそらく、distributedという単語は、decentralizedほどは使われていないのではないでしょうか。

意味合いとしては、distributedもdecentralizedも両方とも「分散」でいいのですが、distributedはラテン語dis(別々に)tributere(与える)が語源で、分配するとか、配布するとか、散布するとか、そういった意味があるように、相当バラバラにするというニュアンスが強い単語だろうと思います。

一方で、decentralizedは、centralizedでさえなければdecentralizedなわけで。大規模な核に全てが繋がっているというわけでなければ、中規模小規模な核はまあ許容されるんじゃないかと。

先にも書いたように、私は英語門外漢どころか大の苦手なので、相当適当なことを述べていますが、以上のような理由で、マストドンインスタンスというのは、「お一人様もまあいいけど、TwitterFacebookほど中央集権でなければ、まあ、ある程度ユーザー数抱えるインスタンスがあってもええんやないの?」くらいの感覚でいいんじゃないかと考えています。

 

あと、私個人としては、マストドンの価値というのは、ユーザーがインスタンスを選択可能であること、インスタンスを移ることに対する労力や不利益が少ないことにあると考えています。

ですから、マストドンのとくに特定のインスタンスによく見られる、ユーザーによる文化に対しては、そこまで重きを置いていませんし、なんなら、時間やユーザー数・ユーザー層の変化に伴って変わっていくものと思います*2

 

で、そういう感覚や考え方を前提として、LTLやFTLについて考えていきます。

 

 

 

さて、先に結論を述べておくと、私は、LTLやFTLは、過疎インスタンスであっても大規模インスタンスであっても、必要だと考えています。

LTLやFTLは、インスタンスの適切な規模と健全な運営を維持するために、必要です。

 

仮に、LTLやFTLが無いインスタンスがどうなるかを考えてみたいと思います。

LTLやFTLが無いと、新規ユーザーは、誰をフォローしていいかわからなくて困ると思いますが、まあ、そこはなんとか解決したものとします。きっと、鯖缶は色々な人をブーストするので、そういったブーストされたトゥートから、面白い人をフォローして、ホームTLを充実させたのでしょう。

マストドンを始めようと思った時、信頼できる人や法人が運営しているインスタンスにアカウントを作成すると思いますが、「ユーザー数が多い=信頼できる」みたいな判断をする人も多く見受けられます(その是非は置くものとします)。

LTLがあると、LTLの雰囲気からインスタンスを選ぶという動きも考えられますが、LTLが無いと、そういう選び方ができなくなります。

また、管理者とユーザーとの間にある、情報の非対称性も考える必要があります。

管理者は、コンソールとか色々なもので、今、どの程度トゥートがあって、サーバーにどの程度負荷が掛かっているかわかるわけですが、ユーザーは、その辺りを知る術があまりありません。

管理者が、適切に新規アカウント作成をオフにすればいいですが、そうでない場合、サーバーが落ちるまで際限なくユーザーが増えてしまうかもしれません。あるいは、ユーザーに実感が無いために、サーバーの負担軽減のための措置に対するコンセンサスが得られにくいかも知れません。

 

LTLやFTLがあると、ユーザー数が増えてきたり、トゥートが急増すると、その様子がユーザーにも視覚的にわかるわけです。

ユーザー数が過度に増えれば、LTLやFTLの使い勝手が悪化します。単純に速度が上がるだけではなく、ユーザー数が増えると確率的に「変な人」も増えるので、自身にとって不快なトゥートがLTLやFTLに流れてくるでしょう。

ユーザー数増加によるLTL・FTLの快適性悪化は、他の、よりユーザー数の少ないインスタンスへの人口流出を促進する働きに繋がります*3

一方で、中小規模のインスタンスにとっては、LTLやFTLの「色」が、インスタンスのウリになるかも知れません。LTLチャット勢にとっては勿論のことながら、そうでなくとも、LTLやFTLはそのインスタンスの運営状態を示すものでもあるからです。

 

また、LTLやFTLは、インスタンスを利用する多くの人の目に留まります。ということは、少なくともパブリックなトゥートに関しては、全員で全員を監視している状態になります。

LTLやFTLが無いと、管理者はありとあらゆるアカウントから発せられたトゥートを24時間不眠不休で監視しないといけなくなりますが、LTLやFTLがあると、「まあ、余程アレなトゥートがあったら通報してくれるやろ」とある種ユーザーに監視を投げることもできます。あるいは、「見られている」というのを前提にした抑止効果も期待できます。

 

あえて、LTLの存在を否定するならば、LTLチャットに依存しすぎることによって、他インスタンスへ移動しにくくなるという点でしょうか。ただ、LTLへ依存すれば依存するほど、そのインスタンスのユーザー数やトゥート数が急増すると困るようになるわけなので、却って分散の方向へ向くのではないかと。

FTLは実用的ではないから不要? ……実用に供せないほどユーザー数やトゥート数が多いインスタンスは、人口過多だと思います。中小規模のインスタンスでは、FTLは、実用に足るどころか命綱だったりするので、不要だなんて言わないでくださいよ……。

お一人様インスタンスでは、流石に、LTL・FTLは不要かもしれません。お一人様インスタンスに特化した、たとえばTwitterのようなUIを備えた、マストドンお一人様エディション(あるいは、Pleromaお一人様エディション)みたいなのがあっても面白いかも知れません。

*1:というのも、公式のマストドン紹介動画でも、decentralizedになっているからです。

*2:そもそも、文化ってそういうものでしょ?

*3:現状、他のインスタンスやActivityPub対応SNSへ行くのではなくTwitterに戻ってしまう人も多いようで、そちらの方が課題だと思います。