2017年秋アニメ「少女終末旅行」のレビューです。ネタバレがありますが、ネタバレがあまり意味を成さない作品ですから、気にするだけムダだと思います。
とりあえず、第1話から第6話までです。結論から言うと、今期トップクラスの良アニメですが、豊作な今期では埋もれがちになるのが悲しい所。原作ストック的に第2期は難しいかかなり後になりそうな気配なので、今のうちに楽しんでおくのが吉でしょう。
今期だと、キノの旅もそうだったと思いますが、人間が持つあらゆる要素のうちより普遍的なテーマを分解再構築している作品だと思います。
この作品の場合、滅んでしまった人類の遺物を見ながら振り返るようなストーリーになってるので、「人類とはいかなる存在か」みたいな問いが物凄く突きつけられるような感覚を受けます。
第1話 「星空」「戦争」
始まり方がまるで映画みたいでしたね。世界観を説明しつつ視聴者を引き込む描写って難しいと思うのですが、それを上手くやっています。
廃墟の中をゆく少女2人。少女が乗るケッテンクラートは、第二次大戦時にドイツ軍が運用していたハーフトラックと呼ばれるタイプのキャタピラ駆動の車両です。オートバイとトラクターを足して2で割ったような車両で、戦後には外貨獲得のために民需用として輸出も行われたようです。ただ、「少女終末旅行」の世界がそうであるかはわかりませんけど。
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重層都市というのは、SFでは古くからよく登場するギミックですね。ネットワーカー的には、スターウォーズのコルサント(インペリアル・センター)とか、弥栄堂の甲鉄傳紀シリーズなんかを思い浮かべやすいかと思います。
しかし、建物に使われている技術に対して、人工台地に使われている技術がなんだか進みすぎてる感じも受けるんですよねぇ……。兵器にしても、まず銃がクリップ装填式ですし、爆撃機は二重反転プロペラですかね? 外見もなんかソ連臭が……。
もしかして、あまりに戦争やりすぎて、武器関係の技術すらも退化してる? ユーリの言う通り、食料生産していた方がマシだったかも知れませんね。
第2話 「風呂」「日記」「洗濯」
前話もでしたが、チトとユーリとのやり取りは、見てて楽しいですね。なんか、本に対して嫉妬したんでしょうかね。無意識に。日記をじーっと眺めている顔も、なんか、よからぬ事を企んでいるような感じで、よからぬ事が落書き程度で良かったです。
今回は温泉回でしたけど、あのお湯、何なんでしょうね。素直に考えれば地熱発電か何かなんでしょうけど、原発の冷却水だったり(それ以上はいけない
OPとEDについて。なんか、POPな感じの曲だったので心配していましたが、ちゃんと本編に合う感じのアニメーションで安心しました。とくにEDは、まさかの原作者ED。よーやるわ……。
TVアニメ「 少女終末旅行 」オープニングテーマ「 動く、動く 」
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第3話 「遭遇」「都市」「街灯」
まさかの第3者の登場です。他に人が居るってわかった瞬間、「弾、込めとけ」ってなるのは、チトやユーリの生い立ちが窺い知れますね。
正直、ビルを爆破して橋代わりにするというのは、あまり良いアイデアのようには思えません。あんな綺麗に倒れるもんかねぇ。まあ、そこを突っ込むのはヤボなんでしょうが。
地図は、人間が理解した世界を記すため、また、人間が世界を理解するために、古代から使われてきました。世界を理解したいというのは、人類の古くからの素朴な欲求のひとつです。どこになにがあるのかが、自身が生きるのに直結するなら猶更。カナザワが地図を作りたくなったその気持ち、なんかシンパシーを感じます。
地理学(地図学)では、よく「地図の権力性」というものが議論されます。というのも、地図というものは、古来、権力者が自身の領土を支配するために、また、自身の権力を誇示するために使われてきた側面があるからです。課税のために用いられた地籍図、行軍のために用いられた帝国陸軍陸地測量部(現・国土地理院)地形図なんか、典型例でしょう。
近年では、GoogleMapや、オープンストリートマップなど、政府以外の組織や個人による実測図も増えてきており、このような流れは、地図の民主化といってもいいかも知れません。
著者のつくみずさんがどの程度その辺りを理解した上で描写してるかはわかりませんが、カナザワにとってあの地図は、本人の「生きがい」であるだけではなく、生きるための実力・資本でもあったのでしょう。ですから、あの地図を失うというのは、(喩えがアレですが)FXで有り金溶かすようなもんで……。
まあ尤も、高層階に来た以上、下層階の情報の価値は落ちてしまうので、仕方が無いと割り切っていちから地図を作るってのが合理的な選択ですよね。
地図を作るというのは、物凄い職人芸が求められます。そもそも、地球は球体なので、それを紙という平面に表現すること自体に、相当な無理があるんです。そういう投影法上の問題だけじゃなく、線の引き方にすら専門的な知識と技術とが必要です。三角関数の知識とかも必要なのですが(高校で習う、あの、サイン・コサイン・タンジェントのあれ。地図作る時に使うんですよ!)、あんな世界のどこで学んだんでしょうね?
ところで地図を作る際、どうしてもある程度の距離を測る必要があるのですが、カナザワは測量機器を別段持ってないようでした。もしかしたら、歩測、つまり、歩幅をもとに距離を測っていたのかも知れません。歩測は、かの伊能忠敬が地図を作る際に使った手法ですが、機械を使って距離を測れないあるいは測るのが憚られるような場合に、スパイや研究者が時たま使う手法でもあります。
歩測をやるには、同じ歩幅で歩けるような訓練が必要です。軍隊経験者なら行軍のために訓練を受けるかも知れませんが……。
さて、カナザワはどこで地図の作り方を学んだんでしょうね?
第4話「写真」「寺院」
前半は、カナザワから貰った写真機の話。ますますカナザワに親近感が……。
地理学の中でも、歴史地理学という分野では、よく、「景観復元」ということをやります。要は、過去、どういった風景が広がっていたかを明らかにするわけですが、そのための資料として、写真はよく使われます。
街は生き物ですから、人の営みと共にどんどん変化していきます。家が建ち、あるいは取り壊され、道路ができ、区画整理が行われ……。日常の何気ない風景が、数年後数十年後には見る影もなく変わっていくというのは往々にしてあることです。
風景が変わっていくというのは、人の営みが潰えて廃墟となった未来でも同様のようですね。
寺院、あれはあの世界での標準的な宗教なんでしょうか? それとも、新興宗教の類? なんとなーく、後者な感じもしますけど。「300年前に~」って案内とか。
不安な気持ちにさせておいて、救いを与えるというのは、それこそ新興宗教でよくやるマインドコントロール手法ですよね。そういう意味で、チト=神説はなかなか的を得ていると思います。
チトがどの程度意図的で、ユーリがどの程度マジだったか、気になる所。
第5話「住居」「昼寝」「雨音」
前回、寺院で挙式を行った二人の、新居探しと団らん回(
「昼寝」での「ちいちゃんだって、どうせ食べられるなら私がいいでしょ?」「いや、そうかも知れんけど」ってやり取り、百合豚的には物凄く「キマシタワー」という感。そうそう、百合アニメはこれでいいんだよこれで。あまりこれ見よがしなことをされてもねぇ。むしろ、これでも充分これ見よがしな部類。
そして、第5話専用ED。良いですね。良い(語彙喪失
第6話「故障」「技術」「離陸」
第3話以来のゲストキャラクター登場。カナザワほど警戒されていないのは、同性だから? それとも、見るからに技術オタクそうだったから?
割れてた部品って、あれ、クラッチディスクですかね? よく部品あったなぁ……。まあ、ケッテンクラートって戦闘機のトーイングトラクターとしても使われていたので、もしかしたら、同型の部品取り車なりパーツなりのストックが残っていたのかも。
イシイも、大変良いキャラ。彼女の目的を考えると、まあ、あの結果は必ずしも悪くは無かったんじゃないかなぁと思いますがね。歩くなり何なりで隣の都市目指すって手もあるでしょうから。
動きもとてもリアル。まあ、あーなるわな。主翼部の、胴体への取り付け強度不足ですね。
もし羽に燃料詰めていたら、あの瞬間に出火して火だるまになっていたかも知れませんが、あの感じだと、燃料は主として胴体に詰めてたっぽいですね。よかったよかった。
小括
この作品、Web連載版を時々読む程度なのですが、大変良い百合アニメとして仕上がっていて、百合豚的には大満足です。もちろん、雰囲気自体も大変素晴らしい芸術的な作品で、ポスト・日常系とも言える作品かと思います。
もし、今期がここまで豊作なシーズンでさえなければ、覇権アニメとなっていたであろう作品。自信をもっておすすめできます。
内容は、15分番組にして、NHK Eテレの夕方帯で流してもまあ問題無さそうな感じですが、今時はNHK夕方帯より民放深夜帯+ネット配信の方がみんな見そうな感じがするのでうーんって所。
先にも書きましたけど、原作のストックが言うほど無いので、難民化必至です。だがそれがいい。
おまけ
「Amazon商品紹介」見てたら、こんなのを見つけました。
いいね、これ。