東海地方、岐阜県としては唯一の、駅に直結した温泉施設「日本真ん中温泉子宝の湯」(みなみ子宝温泉駅)が営業終了となるため、私としては珍しく、葬式鉄をしてきました。
長良川鉄道は、岐阜県美濃加茂市、JR高山本線・太多線の美濃太田駅から、岐阜県郡上市にある北濃駅までを結ぶ第三セクターの鉄道です。
元々は国鉄越美南線と呼ばれていて、北濃から先、現・JR西日本の越美北線(九頭竜線)と接続して福井まで繋がる予定でした。結局、間にある九頭竜湖付近に鉄道を通すことができず、盲腸線となってしまいました。
三セクの駅って、JRと改札を共有していたり、あるいは橋上駅舎化や高架化した際にハブられて微妙な所に駅が取り残されたりしがちですけど、長良川鉄道の美濃太田駅の場合は、橋上駅舎の通路から、長良川鉄道の乗り場が、JRの改札とは独立して設置されています。
長良川鉄道はキャッシュレスがけっこう独特で、交通系ICには非対応なのですが、PayPayやクレカのタッチ決済に対応しているほか、QUICK RIDEというアプリから定期券や1日フリーきっぷを買うこともできるようです。
今回のお目当ての、みなみ子宝温泉駅までは、片道1050円。往復で2100円です。一方で、長良川鉄道全線乗れる1日フリーきっぷは、丸一日乗り放題で2700円。しかも何気に硬券です。
美濃太田駅から北濃駅までは片道1720円ですから、もし北濃駅まで往復するのであれば、単純に1日フリーきっぷの方がお得という値段設定になっています。そもそも長良川鉄道は、途中下車すると運賃跳ね上がりがちなので、単純に往復するだけじゃなくて途中1ヶ所でも寄るなどするのであれば、フリーきっぷの購入を検討するといいと思います。
で、せっかくなので、北濃まで行ってみることにしました。
軽快気動車は、あまり軽快でない音を奏でながら、長良川伝いにどんどんと山の中へと入っていきます。
郡上八幡駅で扉が開くと、ホームから盆踊りの音が。常時流してるんでしょうか? それとも、到着に合わせてる?
そして終着の美濃白鳥駅へ。
……北濃駅まで行くんじゃなかったんかい、というツッコミが入りそうですが、流石に北濃駅まで行くものは限られていて、大抵は美濃市駅や郡上八幡駅、そして美濃白鳥駅止まりです。
そんなわけで、後続の美濃白鳥駅行きをしばらく待ちます。今回の旅行の無計画っぷりがバレる。
ホームに、カー・キャッチャーが展示されていました。突放する時に貨車を止めるために使ってるのを動画で見た事がありましたが、現物は初めて。
駅舎から出てみると、こんな感じ。
長良川鉄道の各駅は、どれもこれも味わい深いものばかりなので、とくに都市部にお住まいの鉄ヲタ各氏は、ぜひフリーきっぷを使って各駅下車してみて欲しい。
駅前広場には、白鳥踊りの銅像と、なぜか日本道路公団のコーンがありました。
後続の北濃行きの、進行方向左側に乗ると、北濃駅の転車台を座ったまま見物できます。
写真を撮り忘れましたが、美濃白鳥駅~北濃駅は、すれ違い設備のないスタフ閉塞式です。美濃白鳥駅は1番線・2番線があって、上り線・下り線で分けているのかと思いきや、現状、1番線しか使っていないようです。
北濃駅を発車する列車の本数は1日8本。19時ないし20時には終電が発車していきます。つまりは、そういう路線です。
さて、北濃駅から折り返して、今回の旅の目的地、みなみ子宝温泉駅です。すっかり暗くなってしまいました。
降りる際、フリーきっぷを見せたら、運転士さんから割引券が貰えました。通常700円なのですが、長良川鉄道を使ってみなみ子宝温泉駅で降りる際に運転士から乗車証明書を貰うと、300円で入湯できるそう。
当然、お風呂の様子は撮っていませんが、とてもよい雰囲気の温泉でした。がっつり観光客向けの温泉というよりは、温泉地にありがちな、地元の人が使う用の温泉って感じ。銭湯に露天風呂とサウナを付けたような雰囲気です。こういうのいいですよね。
ちょっと気付いたのは、浴室内に時計が多く設置されていたように思いました。普通、温泉施設ってあまり時計を設置しないように思うのですが、ここの場合は、電車の時間があるからでしょう。
露天風呂の塀の高さが絶妙で、まるで周囲に何もないだだっ広い平原の中にぽつんとある温泉かのような錯覚を覚えます。
これがあともう1ヶ月で使われなくなってしまうのが惜しいですが、そもそも、この手の水を沢山使う施設って、維持費が大変なんですよね……。
外から見ると、こんな感じ。ここだけ見ると、普通に温泉施設にしか見えませんね。
建物の中からホームへ出ることもできるのですが、温泉施設の横からホームに直接入ることもできます。
……温泉施設閉鎖後は、みんな、こっちの入り口から出入りすることになると考えると、夜なんかはちょっと怖そうですね。
ホームはこんな感じ。有効長40mって感じですね。
施設内の、ホームに直結した出入り口のすぐ上には、信号機が付けられています。到着の30分前には青、15分前には黄色、そして5分前には赤の表示になります。
思えば、長良川鉄道の信号機って、2灯式が多いので、3灯式というだけで見る価値あるかもしれません。
列車が接近してくると、赤が点滅します。青黄点滅とかは都市部の鉄道でたまに見ますが、赤点滅ってここだけなのでは。
ほんと洒落てていいですよね。高望みするなら、これ、露天風呂にも設置してて欲しかった。
長良川鉄道の主要な駅には、(JR東海と違って)駅スタンプが設置されています。
みなみ子宝温泉駅の駅スタンプは「列車から降りると3歩で温泉!?の駅」となっています。このスタンプも、あと1ヶ月で変わってしまうのでしょうか。
右側のスタンプは「温泉スタンプ」だそうです。そういうのもあるんですね。
みなみ子宝温泉駅には温泉と共に、食事処「子安」も併設されています。ここの値段が凄く良心的……というか、はっきり言って価格設定が10年前ぐらいで止まっているのではないかと。
山菜そばを食べましたが、これがなんと600円でした。いやもうちょっと取ってもいいよこれ。
多分、この食事処も子宝の湯が運営してるでしょうから、子宝の湯が閉鎖されると共にこっちも閉店になってしまうのでしょう。長良川鉄道の沿線って、ご飯を食べれる所に困ることが多い(昼食時間帯・夕食時間帯しか開いてないなど)ので、そういう点でも残念です。
温泉・食事処共に、別の所が経営を引き継いでくれるといいのですが……。
土休日の終電は21時24分発。私は1本前の19時44分発で帰ることにしました。美濃太田着は20時52分です。
気動車が来ると、温泉に来ていた家族連れがぞろぞろと見に来ます。乗車する人数やホームの広さを考えると、とても賑やかに。
で、座ろうと思ったら、なんか誰かの飲みかけの缶が放置されていました。
なんつー治安の悪い列車だと思ったかもしれませんが、実はこれ、食品サンプルです。長良川鉄道の沿線には、どうも食品サンプルを製造してる会社があるらしく、この車両はそういった食品サンプルを展示・宣伝するための車両のようです。
他の席には、こぼれたみそ汁やひっくり返ったソフトクリームがあったり、つり革にはハンバーガーやバナナが釣り下がっていたり、つり革に納豆がべちゃっと付いていたりと、もうやりたい放題。
乗降口付近には、こんな感じで、「真面目」な食品サンプルが置かれていました。しかし、うーん、この場違い感よ。
途中、「野生動物と衝撃」というハプニングもありましたが、美濃太田駅には定刻通り到着しました。
そんなわけで、単にみなみ子宝温泉駅にちょこっと行くつもりだったのが、思いのほかちゃんとした日帰り旅行になってしまいました。
美濃市駅以北は川沿いのいい景色が連続しますし、普通に乗っていてもけっこう楽しめる路線だと思います。子宝の湯は9月中、土日月のみの営業で、しかも29日で営業を終えてしまいますが、無くなる前にぜひ行ってみてください。これが無くなるのは本当に惜しい。もっと早く行っとけばよかった。
長良川鉄道の車両には、お手洗いも自販機もありませんから、乗る前にはお手洗いに行って何か飲み物なども買っておくことをおすすめします。美濃太田駅の場合、JRの改札のすぐ横にキヨスクがあり、飲み物や軽食、お菓子などを買えて便利です。
GoogleMapで見ると、美濃白川駅の周辺にはそれなりに飲食店がありそうに見えるのですが、どれもこれも、14時辺りを過ぎてしまうと17時頃まで店を閉めてしまう所ばかりなので、中途半端な時間帯に行ってしまうとマジでご飯にありつけません。徒歩でいける範囲内に道の駅清流の里・しろとりがあるのですが、ここのレストランも例外なく閉まってしまいます。変な時間帯に訪れてしまった場合、駅から長良川を越えてファミリーマート白鳥バイパス店(コンビニ)か、バロー白鳥店(地元スーパー)に行きましょう。バローには鮎の甘露煮も売られてました。
……そういった悲劇を避けるためにも、お昼ご飯や夕ご飯は、みなみ子宝温泉駅で食べる前提で旅程を組んだ方がいいと思います。
(訪問:2024年8月)