海ミハ車両区

宮原太聖(Miha)の雑記帳。おおむね週1回更新でした。当面(記事がある程度貯まるまで)はおおむね月1回の更新です。

Vtuberに過度に「芸能界」「アイドル」の文脈を持ち込むことへの疑問

マストドンが日本で話題となったのは2017年春、Vtuberが台頭してきたのは同年秋でした。

VtuberのファンコミュニティーはだいたいTwitterを土台にしていることが多いので、2017年5月頃にActivityPubへ移行してしまった私は、そういったファンコミュニティーからやや距離を置いた状態でずっと楽しんできました。

そのせいか、どうも、最近のVtuberのファンコミュニティーは、Vtuberに対して、過度に「芸能界」や「アイドル」の文脈を押し付けすぎているのではないかという疑問を持つようになりました。

あまりまとまった文章になっていませんが、Vtuber界隈(主にファン層)に対する問題提起として、お読み戴けると幸いです。

 

 

 

Vtuberの定義・種類

話を始める前に、Vtuberの定義をはっきりさせておきたいと思います。

私は、月ノ美兔が「だいたいにじさんじのらじお」第1回で示していた定義、「とどのつまり、本人がバーチャルユーチューバーを名乗っているかどうか」が結局のところ一番よい定義だと思っています。要は言ったモン勝ちですよね。

「はっきりさせるって言っておきながらはっきりしてねーじゃねーか」ってツッコミが来そうですが、私は、はっきりしない、少なくとも現時点でははっきりさせるべきではないことをはっきりさせたい。なぜなら、Vtuberの定義を厳格化すると、そこで、Vtuberができる事できない事の範囲が確定してしまい、あり得たかもしれない発展の道が失われるからです。その剪定をするには、Vtuberはまだまだ幼木すぎる。

ただ、人間は漠然としたものを漠然としたまま理解することができないので、その理解を目的として、何らかの概念を付与したり分類分けをする必要があるわけです。

そこで、隣接する界隈も含めて、使われている技術や見た目などを元に便宜的に分類分けすると、以下のようになるのではないかと思います。

  • 実写あるいは極めて実写に近いCG、生声あり、覆面(多くの日本人YouTuber)
  • 実写あるいは極めて実写に近いCG、声なし、覆面(謎ノ美兔)
  • フルCG、演者なし(MMD 初期「踊ってみた」版電脳少女シロなど)
  • フルCG、全身モーションキャプチャーあり、生声あるいはボイスチェンジャー(狭義のVtuber
  • フルCG、全身モーションキャプチャーあり、ボイロ声(のらきゃっと)
  • フルCG、生声あるいはボイスチェンジャー(3Dにじさんじなど)
  • フルCG、ボイロ声、オリジナルキャラクター(一部のボイロ実況など)
  • フルCG、ボイロ声、ボイロソフトのキャラクター(一部のボイロ実況など)
  • 2Dイラスト、生声あるいはボイスチェンジャーにじさんじ、ホロライブ、一部のYouTuber)
  • 2Dイラスト、ボイロ声、オリジナルキャラクター(一部のボイロ実況など)
  • 2Dイラスト、ボイロ声、ボイロソフトのキャラクター(多くのボイロ実況)

 

Vtuberがなぜ革新的なのか

プライバシーを保護しつつ大々的な活動ができる

海外のインターネットコミュニティーは、本名で活動するのが普通です。顔も平気で晒します。

しかし、日本のインターネットコミュニティーは、そうではありません。2chやその前身のあめぞう、伝え聞く所によるとNiftyがインターネットに接続して以来、日本のネットコミュニティーの多数派は、匿名であることを貴ぶ傾向があります。

本名での投稿を前提とするFacebookは、ついに日本国内で覇権的な地位になれませんでしたし、YouTubeも長らく、後発のニコニコ動画に押されていました*1。そういった中で、顔を晒し続けてきたヒカキンさんは凄い。

Vtuber登場以前から、Vtuber的な活動をしていた人は多く居ました。覆面をして演奏したり、ボイロを使ってゲーム実況をやったり。

「インターネットカラオケマン」とかありましたよね。覚えてますか?

 

是非はともかくとして、日本語のコミュニティーで、日本人が、生声、実写で顔を晒すのは、非常にリスキーです。

この問題をVtuberは解決しました。生身、なんなら声すらも晒すこと無く、YouTuber的なことができるようになりました。そういう意味では、のらきゃっとは最もVtuberらしいVtuberだと思います。

分業できる

普通のYouTuberやアイドル、芸能人は、多くの要素を独りで賄わなければいけません。風貌や声、思考、歌声、ゲームの腕前などは、それぞれ個人に固有の才能や技能に強く依存します。

Vtuberは、それぞれ全く別人が担っても構わないわけです。

そもそも「中の人」はイラストの姿ではありませんし、「ママ」への発注によってデザインされるのが割と普通だったりするわけですよね。個人勢であっても。

声と思考も分離できます。この点でものらきゃっとなんか典型ですね。 

歌声やゲームの腕前といった技能とも分離できます。

かつて、猫宮ひなたが、PUBGを自身でプレイしていないのではないか(元プロゲーマーによるプレイではないか)というスキャンダル?で炎上したことがありましたが、私はこの炎上、納得がいきません。なぜなら、私は、その分業は「アリ」だと思っているので。

 最近は、にじさんじのオーディションにダンスが追加されていると聞きますが、こういう意味では、ナンセンスだと思います。声や思考を担当する演者を、わざわざ躍らせる必要はないと思います。そこは分業できるし、必須にする必要はない。

 

分業すると何がいいか。「中の人」が必要な要素に限定しますが、各要素で優れた人に担当させることで、よりハイクオリティーVtuberを「合成」できるんです。

話術、発声、歌、ゲーム、ダンス、それぞれ全く異なる技能です。これらを兼ね備えた逸材なんて、そうそう出てくるモンじゃないでしょう。しかし、個々に特化してる人は、そこそこ居るはずです。

分業が可能になると、交通事故か何かで寝たきりになってしまった人であっても、Vtuberになれます。身体的に難しい部分は、別の人が担当するか、プログラム上で再現してあげればいいだけです。難病であっても、身体障がい者であっても、健常者と全く台頭に勝負できるのがVtuberの世界だと思いますし、また、そうあって欲しいとも思います。

声優志望者などの受け皿として

日本が世界に誇るアニメ産業を支える専門職のひとつが、声優です。私の友人にも声優を志望して専門学校に通っていた人が居ますが、その道はとても険しい。

プロの声優として食っていける人なんて、ごくわずかですし、ましてや、その労力に見合った対価が得られる人など、果たして国内にどれほど居るか。

アイドル声優なんか、一部の声優オタクから割と叩かれる存在であったりしますが、それだって、そもそも、声優業だけで食っていくことが難しいからアイドル的な売り方が流行したわけで。

声優人口、ひいては声優のクオリティーを担保するためには、相応の「お仕事」が必要です。買い支えようにも、作品が無い・少ない声優を買い支えることなんてできません。Vtuberなら、スパチャ投げたりボイスを買ったりすることで買い支えできます。

この辺りの事情は、俳優・女優の世界や、スーツアクターなんかも同じなんじゃないかと想像します。この辺りの人にとって、Vtuberは、福音になり得るだけのポテンシャルを持っています。

……ただ、現状、どんなにVtuberとして有名になったとしても、演者本人の知名度はあまり向上せず、次の仕事になかなか繋がらないという問題があるようにも思えますが。

 

最近のVtuber界隈を見てて覚える違和感

キャラと「中の人」を混同しすぎではないか?

月ノ美兔などの芸風を見過ぎていると勘違いしそうになりますが、彼女のあれは、ある種のナンセンスジョークであって、本来、外身のキャラクターと「中の人」は、全く別の存在です。「中の人」は、あくまで外身のキャラクターを演じているんだという事を、みんな忘れがちになっているのではないでしょうか。

月ノ美兔の中の人が事務所やレーベルに意見を言ったからって、だから何なんです? より良い「月ノ美兔」という作品を創り上げるためには、多くの真剣な議論が必要なのは、当たり前でしょう。チームなんですから。

Vtuberのだれそれの中の人が彼氏持ち? 彼氏が居て何が悪いんです? 赤セイバー*2の中の人*3は、今、産休中ですよ。まどマギ佐倉杏子などを演じた野中藍だって、今や結婚して母親です。

アイドル当人に対して過度に非人間的な部分を求めるのは、芸能界隈のあまり良くない風潮だと思います。キャラクターを偶像として、その偶像に偶像らしさを求めるのはともかく、それを演者にまで投影して求めるのは、率直に言って人権侵害だと思う。

演じているキャラクターが限りなく本人に近いものであったとしても、分離して考えるべきです。彼ら彼女らは、ファンが望んでいる所の「自分」を演じているに過ぎないんです。アイドルは架空の存在だからこそ、幻想だからこそ、アイドル(偶像)なんです。

だいたい、粋じゃないんですよ。野暮なんです。井上喜久子に対して「経歴詐称だ!」「優良誤認だ!」って言うようなモンです。そもそも、そんな事を言い始めたら数百歳の吸血鬼とか鬼とか悪魔とか*4、高性能AIとかアンドロイドとか、皇女とか錬金術師とか女騎士とか魔女とか、デビューして最初のゲーム配信が魔界村の耐久配信な美大生とか、こりん星とか、エリー・コニファーとか、んなモン実在するワケねーだろうが。まじめな話。

事務所移籍はスキャンダルなのか?

声優の世界では、事務所移籍は割と普通です。同じ作品に複数の事務所の声優が共演するのも日常です。そこに壁なんてあまり無いんですよね。

たとえば、阿澄佳奈という声優が居ますが、彼女は、ボイスアンドハートから81プロデュースに移籍した経験がおありです。当時、スキャンダルなんかにはなりませんでした。

Vtuberの場合、中の人が移籍すると、その人が担当していたキャラが権利的な事情から実質死ぬので、そういう問題はあるかもしれません。けれど、言ってみれば、それだけでしょう。

演者は、事務所の社員ではありません。個人事業主で、その仕事の一部を事務所に委託しているだけで、そういう意味では、対等の関係のはずです。……なぜだか日本の芸能界では演者に対して事務所の力が強すぎるようですが。

昔であれば、芸能事務所に所属していないとテレビや映画に出れないといった事もあったでしょうが、それこそYouTubeがある今日では、やろうと思えば個人でも活動できるわけです。事実、Vtuberの個人勢は結構居ますよね。名取さななんて、個人勢なのにマウスコンピューターから企業案件取って来ていて、もうワンマンアーミー状態ですよ。

事務所と演者との関係性の悪化は、ファンとして心配になる要素かもしれません。しかしそれはあくまで、事務所と演者の間で解決されるべき問題であって、本質的に、第三者が口出しするべき話ではないと思います(当事者が助けを求めているような場合を除いて)。

キャラクターの版権の関係上、事務所を変えてしまうと必然的にそのキャラは使えなくなってしまうという問題はあり、キャラクターが好きだったという人にとっては哀しい思いに浸る事になるかもしれません。そういう意味では移籍というのは大事ではあるのかもしれません。しかし、それは、漫画の連載終了や掲載誌変更でも同様でしょう。久米田康治は2004年まで小学館の少年サンデーで連載して、2005年からは講談社少年マガジンへ移籍しています。久米田の野郎がまさか赤松健先生と同じ雑誌に連載を持つ日が来るとはとは思いましたが、あの驚きは、スキャンダルとはまた違った別の何かだったはずです。

事務所移籍や脱退はスキャンダルですか? 日本の芸能界のローカルルールをVtuberの事務所にまで持ち込むべきなのでしょうか?

著作権侵害・ライセンス違反疑惑はそこまで騒ぐべき問題なのか?

これは、ドルオタ界隈の文脈とは関係なく、またもしかしたらVtuberに限った話ではないのかもしれませんが、著作権侵害やライセンス違反が疑われる案件に対して、過剰に反応しすぎているように思います。

もちろん、これらの権利はとても大切です。クリエイティブな世の中を実現するために、こういった権利やライセンスはきちんと守られる必要があります。

 しかし、忘れていませんか? 著作権侵害親告罪です。違反が疑われるからといって、それが即、罪に問われるわけではないのです。権利者が黙認している可能性だってありますし、あるいは、個別に別の契約で許可しているかもしれません。

一見して疑われるからといって、それだけでまるで犯罪者のように扱う昨今の風潮は、はっきり言っていきすぎ*5ですし、却って創造を萎縮させてしまっているのではないかとすら思います。

権利者に対して通報する以上の事をする必要は無いですし、それ以上の事をしてはいけないと思います。権利者が黙認している場合、無為に騒ぎ立てるのは、権利者にとっても不本意でしょうし、むしろ(こういった概念は多分無いので、便宜的に名前を付けますが)親告罪であることに内在している「黙認する権利」のようなものを侵害している……とも考えることができるのではとも思います。

Vtuberの「切り抜き」が、まさにこれに当たるでしょう。引用の要件も満たしていないし、はっきり言って、あんなのは著作権侵害そのものです。公式の動画の再生数が伸びないなどの実害も容易に想像できますし、訴えられたら終わりです。しかし、多くのVtuberや事務所は、管見の限り、黙認か追認をしているようです。そういった動画が宣伝効果を果たしていることは間違いないでしょうし、なにより、仮に訴えてしまった時にファンのコミュニティーでの心証を極めて悪化させかねませんからね。現状。

そこを「著作権侵害だ!」って、Vtuber当人(中の人)でもスタッフでもない人が騒ぎ立てるとしたら、どうでしょう。それは、一見してVtuberの権利を守ろうとしているようで、Vtuberの権利を侵害している、活動を妨害しているようには思いませんか?

結局君ら、単純に騒ぎたいだけでは。

 

言いたかったこと

私は別に「Vtuberをアイドル扱いするんじゃねーよ」とは言いませんし、昨今の不穏な色々をドルオタのせいにするつもりもありません。Vtuberを芸能人扱いするなとも思っていません。

しかし、バランス的な理由で、もっと別の界隈の文脈も入れても良いのかなと思いましたし、なんなら、Vtuberはもっと過去の束縛から解放された存在であって良いと思うんです。既存の概念や慣習に囚われること無く、もっと自由で、もっと独創的であって欲しい。

そもそも、既存の、芸能週刊誌的で下世話なイエロージャーナリズムを、こういうフロンティアに持ち込まないでほしい。せっかくこの分野では日本がほぼ独走独占状態なのに、その進歩を止めるような事をしないで欲しい。

この手の暴言や罵倒は、クリエイティビティを大きく損ないます。機器にお金が掛かるだけで全然お金にならない「技術者のお遊び」だったVRVtuberを、少なくとも日本国内においては、とりあえず一応は「稼げる」コンテンツにまで成長させることができたのは、各社各人の創造力によるものです。コンテンツ産業全体の未来のためにも、この流れを止めてはいけない。

 

憎悪や対立を煽る動画は、そりゃあ再生率伸びます。しかし、そういった強い感情に浸りたくない私みたいな人間からすると、ただただ迷惑でしかありません。

ぶっちゃけ私は、自分が見たくないものを見たくないと言いたいがために、ここまでだらだらと6000字以上にも渡り、無理やり理屈をこねくり回していたのかもしれません。駄文に付き合わせて申し訳なかったです。

ということで、とりあえずニコ動は、任意の投稿者による動画をまとめてミュートするような機能をはよ実装してくれ*6。何かある度に、その話題でランキングが制圧されて単純に不便だし、そもそもこの機能をあえて付けない理由が無いと思うの。

*1:そもそも画質がショボかったというのもあるでしょうけど。

*2:ネロ・クラウディウスFate

*3:沢城みゆき

*4:にじさんじ人外多すぎ問題。

*5:そもそも、裁判によって確定されるまでは推定無罪だっていう事も忘れられがちですよね。君らは裁判官なの? 人民裁判なの?

*6:YouTubeには「チャンネルをおすすめに表示しない」機能があるんですけどね。