海ミハ車両区

宮原太聖(Miha)の雑記帳。おおむね週1回更新でした。当面(記事がある程度貯まるまで)はおおむね月1回の更新です。

『Re+Train』読了

f:id:t_miyahara:20190129103836j:plain

このたび、Amazonの欲しいものリストに入れておいた『Re+Train』が届きました。ありがとうございます。

この本、わずか19ページの、いわゆる写真集で、しかも、どうも自費出版のようでISBNコードが付いていません。

しかし、その内容は、とても19ページの自費出版とは思えない美しさ、そしてボリュームです。

タイトルから、どちらかというと廃墟本に近いのかなって感じも受けますし、また実際、それに近い写真も多いのですが、綺麗に保存されている静態保存車両や第二の人生を謳歌している車両の写真、また、ボロボロな状態で放置されていたものの塗り直され往年の姿を取り戻した車両の写真も掲載されています。そして、それゆえに、赤さびた車両との温度差が感じられるというか。

SLブーム華やかなりし頃、全国で、蒸気機関車が静態保存のために自治体などへ引き取られていきました。しかしそれは、静態保存という名の屋外放置でした。どこにも繋がっていない鉄路に縛り付けられた鉄馬達は、みるみるうちに汚れ、錆び、ガラスが割られ、部品が盗られ、囲いの中で寒々しい姿を晒すだけの存在となっていきました。そして彼女たちは、自身の価値を見出してくれていたはずの自治体によって、「危険だから」と解体されていきました。

この本に載っている車両のほとんどは、何らかの目的により線路を離れ、解体されることもなく、ただただ風雨に晒されている車両達です。所有者の意向によっていつ解体撤去されてもおかしくないですし、また、そうせずとも、幾百年も経てば、塵へと還ってゆくことでしょう。

人間は、何かを失うか失いそうになるまで、それの魅力を気付けないものです。SLブームなんか正にそれでした。廃車両も、いつ無くなるかわかりません。そのような意味で、廃車両に抱くことのできる魅力というものは、ある種、SLブームと同様の普遍性を有しているのかもしれません。

 

著者は、あとがきで「十分な土地と資金があれば、国鉄型の古い車両を買ってきて秘密の庭に置いておきたいなぁとひそかに想像しています。そして、そのまま放置しておき周囲の草木の生えるに任せ、廃列車として移りゆく四季を楽しみながら過ごせたら、それは至極の贅沢だと思います」と述べています。

西欧の庭園には、時折、「フォリー」という建築物が置かれます。これは、通常の使用するための建築物ではなく、廃墟や遺跡のように見えるように作られた、いわば装飾をするための建築物です。通常、フォリーに本当の廃墟や遺跡を移築してくることは無いのですが、たしかに、フォリーとして鉄道車両を持って来るというのは、なかなか趣があって良さそうではあります。

このあとがきを読んで、改めて本誌を見返すと、なるほどと腑に落ちました。そうか。この気持ちは、美しい庭園を見た時と、きっと同じなのでしょう。

 

そんなわけで、大変おすすめです。重ねてになりますが、送っていただいた方、本当にありがとうございました。

 

sangyoisan.com

発行所の同人サークルのムサシノ工務店は、他にも廃墟を題材とした写真集などを多く出していらっしゃるようです。そういった写真がお好きな人は、ぜひ。