あなたはきっと、TwitterとかFacebookとか、そういうSNSを使っていると思います。
これら商業SNSは、当然のことながら営利企業が運営しています。営利企業は、お金を儲けて、株主に配当をすることを目的にした団体です。
つまり、Twitter社やFacebook社は、それぞれ、自社のSNSでお金を稼がないといけないわけです。
マクドナルドは、自社の利益のために、ハンバーガーを売っています。お客さんは、ハンバーガーセットを食べるために、500円程度のお金をマクドナルドに支払います。
マクドナルドに行くために、鉄道やバスを使うかもしれません。そうすると、初乗りで120円だか200円だかぐらいを鉄道会社やバス会社へ払うわけですね。
では、あなたがその車中で使っているTwitterはどうでしょうか? スマホを使うために、機種代と通信料は、ケータイキャリアに払っているかも知れませんが、Twitter社にお金を払ったことはあるでしょうか? あなたは、今月のFacebook利用料をFacebook社に払いましたか?
なぜあなたは、無料でSNSを使うことができるのでしょうか?
結論からいうと、あなたは、個人情報あなた自身のプライバシー*1を切り売りすることでTwitterやFacebookを使うことができているのです。
一応、前置きしておくと、私は経済学とか情報科学とか法学とかは専門外です。なので、その辺りは留意願います。
……まさか、インターネットの情報を無批判に真に受ける人なんて居ないとは思いますが。
さて、ここに取り出したるは、一冊の本。
この『フリー』という本は、ちょっと分厚いので引きやすいですし、だいたい出版が2009年とかなので、内容が若干古いというのもあるのですが、まあ、こういう問題を考える上では、ちょうどいい教科書になるんじゃないかと思います。そう難しい書き方もしていませんしね。
安いkindle版やペーパーブック版も出ているようなので、興味ある人はぜひ。
さて、無料とは、非常に不思議な価格です。600円のチョコレートを100円ですと言って出すより、500円のチョコレートを無料ですと言って出した方が、食べる人が多くなるんだそう。同じ500円引きなのに。
先にも述べたように、無料というだけでは全く儲けになりません。しかし、多くの企業が「無料」という名の蜜を使って消費者を引き付けようとしています。
儲けるために作られた無料の商品というのは、大きく4つの種類に分けることができます。
(1)直接的内部相互補助
「ピザを1枚買うと、もう1枚はタダ」とかいうやつですね。
たとえば、3900円のピザと2800円のピザとを買う場合、2枚目のピザは無料となるというもの。
これはつまり、ピザ2枚で3900円ということで、2枚目のピザが無料となったというよりは、そもそも1枚目のピザに2枚目のピザの料金が内包されているんです。2枚で3900円のセット、あるいは、2枚買うことで1枚あたり1950円になったということ。
結局、2800円引きというだけで、きちんとお金を払っているんです。
(2)三者間市場
民放のテレビ番組を見ていて、内容が気になり始めたタイミングでCMが入り、「なんだよ。はやく結果を見せろよ」とイライラした経験、きっとあるんじゃないかと思います。三者間市場は、正にこのパターンです。消費者は無料でテレビ番組を見れるわけですが、その製作費を広告主に出して貰っているという形です。
あまりに一般的すぎるので、まあ、そういうもんだよねと思う方も多いかと思いますが、もう少し深く考えてみましょう。
消費者は無料で商品(テレビ番組やフリーペーパーなど)を手に入れます。製造者(テレビ局や出版社など)は、広告スペースを広告主に販売し、そのお金で商品を作ります。ここまではいいですね?
では、広告主は、なぜ広告を出すのでしょうか? 広告を出すお金はどこから来ているのでしょうか?
大概の広告主は、製造者と同様に営利企業です。広告主は、自社の商品を売ることでお金を得ています。その商品を買うのは誰でしょう? あなたですね。
つまり、あなたが無料だと思って見ているテレビ番組やフリーペーパーの代金は、後々、あなたが買うこととなる商品の代金の一部としてきちんと払っている、ということです。
身近な例でいくと、伊藤園は、収益の2.7%を広告費に費やしているそうです。つまり、100円のおーいお茶を買うと、だいたい2円ぐらいが、伊藤園がスポンサーになっている番組の制作費としてテレビ局とかに流れているということになります*2。
(3)フリーミアム
少数の課金ユーザーが、大多数の無料ユーザーを支えるビジネスモデルです。
代表的なものは、「基本無料」の課金ゲーでしょうか。実は、ニコニコ動画もこのタイプです。
たとえば、ニコニコ動画は、無料で誰でも見ることができます。動画もアップロードできます。しかし、あなたはニコニコ動画にお金を払う必要はありません。なぜなら、プレミアム会員(課金ユーザー)があなたの代わりにお金を払っているからです。
では、そんなプレミアム会員は、見ず知らずのあなたに会費を奢れるぐらい気前のいい人なのかといえば、必ずしもそうではありません。
無料ユーザーよりプレミアム会員の方が高画質でサービスを楽しめます。また、広告もカットできます。より快適にサービスを楽しみたいなら、課金しなくてはなりません。
この辺りの事情は、課金ゲーでも同じですね。無料で楽しむこともできますが、自分が好きなキャラを集めたり勝ったりするには、課金する必要があります。その課金されたお金によって、無料ユーザーを支えるわけです。
(4)非貨幣市場
あなたは、無料でこのブログ記事を読んでいますね。どれだけ多くの読者にこの記事が読まれたとしても、私には1銭のお金も入ってきません。Amazonのアフィリエイト広告から商品でも買って貰えれば別ですが、私の生活を支えるほどの収益どころか、記事を書き終わった後に飲むコーラ代にすら達しません。
私は、記事を書き、あなたが読むわけですが、私は、金銭の代わりに、あなたの注目や評判を手に入れることができます*3。そして私は自己満足します。
あるいは、有名どころでいけば、いらすとやなんか典型かもしれません。
いらすとやの素材は、全て無料で使えます。まあ、厳密には、商用で21点以上の素材を使う場合などには有料になるそうですが。
大量の素材がアップされているわけですが、それによっていらすとやさんにお金が入るわけではありません。ですが、使われれば使われるほど、いらすとやさんが有名になるわけです。有名になれば、「お金を払ってもいいからイラストを描いてくれ」という人も出てくるかも知れません。というか、出てきてることでしょう。
それでは、いよいよ本題。なぜ、あなたはSNSを無料で使えるのでしょう?
ニコニコ動画も一種のSNSですが、先に述べたようにフリーミアムという方法で儲けています。しかし、それだけでは足りないようで、無料ユーザーの場合は広告が表示されるようになっています。そう、三者間市場ですね。
TwitterやFacebookには、そもそも有料会員というものがありません。その代わり、全てのユーザーに広告が表示されます。あなたはTwitterやFacebookに表示される商品を買うことで、TwitterやFacebookの利用料を間接的にちゃーんと払っているということになります。
……というのは、表の話。ここから、少しきな臭くなります。また、議論が分かれる所でもあります。
TwitterやFacebookでは、「ターゲティング広告」というものが使われています。皆さんが投稿したり登録した情報を元に、あなたが関心を持つであろうと思われる情報を広告として出す仕組みです。
たとえば、アニメの話題ばかりしている人であれば、きっとオタクでしょうから、とらのあなとか、メロンブックスとか、アニメイトとか、そういう広告が優先して表示されるでしょう。もし野球の話題が多いようなら、ヤクルトや日本ハム、野球用品、ときに球場やキャンプ地近くのホテルの広告なんかが出てくるかもしれません。
このような広告で最も有名なのは、GoogleAdです。Googleは、あなたが一体何に関心を持っているかに関する情報を集めています。疑問に持つ人は、Googleにログインした状態で、「広告のカスタマイズ」というページを見てみるといいでしょう。少しドキっとするキーワードも入っているかもしれません。
ちなみに、Googleは、検索履歴だけじゃなくて、いつ、どのスマホがどのように移動したか(つまり、あなたがどこに居てどう移動したか)に関する情報も集めてます。尤も、これはGoogleに限った話ではなくて、トヨタやホンダも、自社のカーナビから、どの車がどの道を通ったかに関する情報を手に入れています。
一部のスマホアプリは、付近のお店を案内するなどの名目でGISでの位置送信の権限を求めてくるものがありますね。たとえば、ポイントカードや電子マネーのアプリで、GISのデータも手に入るとなると、いつ、どこで、誰が、何に対してどれぐらいお金を使ったか、ぜーんぶ筒抜けになっているかも。
尤も、現状、そういう個々人の情報を個々人のまま分析するなんてできないので、色々な人のデータを合わせて統計処理することになるとは思うのですが。
もちろんTwitter社も、ターゲティング広告を使っています。
Twitterでフォロー、ツイート、検索、閲覧、ツイートまたはTwitterアカウントへの反応などを行うと、それに基づいてTwitter広告がカスタマイズされます。たとえば、特定の用語を検索すると、そのトピックに関連したプロモコンテンツが表示されます。また、プロフィール情報、モバイル端末の位置(位置情報サービスが有効な場合)、IPアドレス、端末にインストールされているアプリなど、アカウントに関する情報を使って広告をカスタマイズすることもできます。これによって、利用者がいる場所に対応した広告や利用者の興味が高そうな広告を表示できます。
ハッシュ化されたメールアドレス、モバイル端末の識別情報、ブラウザ関連の情報(ブラウザのCookie ID)など、Twitterと関連会社が収集する情報や広告パートナーによって共有された情報に基づいて、Twitterが広告をカスタマイズすることもあります。
これらの情報は利用者が興味関心を示したものに応じて、利用者の好むブランドや企業の広告をTwitterで表示するのに役立ちます。たとえば、利用者が普段見るウェブサイトの企業やニュースレターを購読しているブランドの特典や宣伝を含むプロモツイートが表示されることがあります。また、こういった企業がプロモアカウントとしておすすめユーザーに表示されることもあります。
もちろん、Facebook社も。
このようなターゲティング広告に対しては、労せず自分の好きな情報が集まるからいいじゃないかという考え方も当然あります。
先の例だと、アニメオタクで野球に全く関心が無いのに野球用品のCMが流れてきても邪魔なだけですし、野球オタクでアニメに関心が無いのに声優のイベントに関するCMが流れてきてもウザいだけですよね。
しかし、このターゲティング広告、よくよく考えると、便利だ便利だと呑気に喜んでばかりはいられないものでもあります。
アメリカのあるメディア評論家は、Facebookについて次のように語ったそうです。
「Facebookに対して誰がお金を払っているかを考えてみてほしい。ふつうは、お金を払っている者が顧客だ。Facebookにお金を払っているのは広告主だ」とラシュコフ氏は続けた。「自分が使っている製品の顧客がわからないとき、その製品の目的もわからない。われわれはFacebookの顧客ではなく、製品なのだ。Facebookはわれわれを広告主に売っている」
現在、Twitter社やFacebook社、Google社といった、アメリカの(シリコンバレーの)大手IT企業は、国家や警察よりも膨大な、ありとあらゆる個人情報を所有しています。
営利企業として、この宝の山のような情報を使わないという選択をするのは、株主訴訟モノのアホの所業でしょう。
ターゲティング広告は、まさに、膨大な個人情報を合法的にお金に換える手段のひとつです。商用SNSの最大の商品はユーザーで、顧客は広告主だ、というのは、正に的を得た指摘といえるでしょう。
この技術が発展していった先に待ち構える未来は何か。ありとあらゆる消費行動が商用SNSによって支配される世界です。消費行動だけならまだしも、もしかしたら、選挙行動まで左右されてしまうかも知れません。そうなってしまったら、民主主義は成り立ちません。
実際、Facebookが集めていた個人情報が、大統領選でトランプ陣営の選挙活動に利用され、大問題になりました。
さらに、日本では、2019年から施行される改正著作権法で、SNS上の情報をAIが分析するような事業がやりやすくなりました。
AIといえば、2017年に、立命館大学大学院の修士課程院生がPixivのR-18小説を使ったAIを学会報告しようとしたところ、大炎上した事件がありました*4。
立命館大の院生を批判する人達は、「使うにしても、論文中で"晒す"のは酷い」という主張をしますが、そもそも日本の著作権法では、こういった場合には、引用元をきちんと明示しなくてはなりません*5。そしてそれは、人工知能学会に限らず多くの学会の規則としても厳守するように義務付けられています。
さて、実は2009年ぐらいから、自分が使うような「情報解析」の範囲内であれば、他人の著作物を承諾なく、自由に使えるようになってます。
更に、今回の改正著作権法で、他人にその解析結果のデータを提供できるようになります。
……これ、先の商用SNSの話と併せると、結構凄いことできそうだと思いません?
つまり、TwitterやFacebookには、あなたによるものも含む大量の投稿の情報があるわけですが、それらをあなたの許可なく、ユーザーの許可なく、「統計的な解析」をした情報を販売できちゃうわけです。ええのそれ?
ついでにいうと、AIのディープラーニングは、基本、学習するための情報が多くなれば多くなるほど精度が上がるので(多分)、たとえmixiとか日本とかいうごくローカルな地域においてすらシェア持ってないSNSで同じようなことをやろうとしても、Google社とかFacebook社とかにはまず勝てません。……あれ? 日本詰んでね?
……と、とにかく、あなたがSNS上に投稿した情報は、投稿した瞬間に、あなたの管理下から外れ、多くの投稿と共に、Twitter社なりFacebook社なり、そういった営利企業によって営利目的で使われることになります。
それはそれでいいという考え方もあるかも知れませんが、皆が皆、それを意識して使っているかと問われると、そうではありませんよね*6。いずれにせよ、特定の営利企業がSNSの世界を独占し、ありとあらゆる個人情報が限られた会社にだけ集まるという状況は、健全とは言い難いものがあります。
仮に、Twitter社やFacebook社といった商業SNSに個人情報を切り売りするのに辟易して、そんなことはもう止めたいと思ったら、どうすればいいのでしょうか?
そう。そんなあなたのために、近年、「Dweb」というものが注目を集めています。
Dwebとは、Twitter社やFacebook社のような中央集権的なWeb2.0の世界のアンチテーゼとして、より分散したWebの世界を目指す動きのことです。DwebのDは、Decentralised(非中央集権)です。
このGigazineの記事では、Dweb=P2P・ブロックチェーンみたいな風に説明されていますが、実際には、中央集権でさえなければいいので、使われている技術はそこまで問題ではないように思います。
そこで、現状、日本で最も普及しているDwebのSNSといえば、そう。マストドンですね。
マストドンは、数多くのインスタンスによって構成されています。特定の会社が運営しているわけではありません。もちろん、企業が運営しているインスタンスもありますが、そうでないものもあります。
マストドンは、ActivityPubという規格(プロトコル)が使われています。同様にActivityPubを使っている他のSNSとも繋がっています。たとえば、マストドンはアカウントを作る際に、メールアドレスを登録する必要があるのですが、それが嫌なら、メールアドレスの登録が不要なPleromaを使うことで、ActivityPubを使ったSNSのネットワークの中に入ることができます。
ActivityPubを使ったSNSのネットワークは、非常に広大かつ複雑なので、その全容を把握しようとすること自体が困難です。分析はより難しいでしょう。
さて、マストドンは、なぜ無料で使うことができるのでしょうか?
マストドンは、オープンソースのSNSです。誰でも自由にインスタンスを立てることができますし、そのインスタンスの管理者が許可していれば、誰でも無料でアカウントを作ることができます。ただし、インスタンスの運営自体にはお金が掛かります。私自身もインスタンスを持っていますが、年間1万5000円近く掛かる見込みです。
インスタンスの運営費用は、各々のインスタンスの管理者が負担しています。また、多くのインスタンスでは寄付を受け付けています。つまり、フリーミアムとか非貨幣市場に近いです。
仮にフリーミアムとしてマストドンを見た場合、他の課金ゲーとかニコ動とかと比べると、自分が一体どの課金ユーザーによって無料で使えているか、自分が払ったお金で誰が無料で使えているかが、比較的わかりやすいという特徴があります。この点は、精神衛生上、とても良いのではないでしょうか。
私のインスタンスは、先にも述べたよう1万5000円/年程度、維持費として掛かる見込みです。つまり、月あたり1000円以上ですね。
さて、改めて、TwitterやFacebookなどについて思いを巡らせてみましょう。月あたり1000円近く*7、ユーザーは運営会社に何らかの形で代金を払っているはずです。
一体何を払っているのでしょう?
*1:2018年11月12日訂正。冷静に考えたら、「個人情報」というよりは「プライバシー」でしたね。
*2:卸し価格の2.7%だろとか、広告費ってテレビだけじゃねーだろとか、そういうツッコミはあると思いますが、そういうことを言える人は、この辺りの仕組みわかってるから問題ないでしょ? 文句あるなら、あなたが上手く説明してよ。ここからリンク貼るから。
*3:もしこの記事が秀逸であれば。
*4:関係無いですけど、この件について、立命館大は、当該院生をちゃんと守ったんですよね? ですよね? とくに続報とか聞かないですけど、まさか、研究者生命終わったりしてませんよね?
*5:この点に問題を抱くのであれば、法改正を求めるべきでしょうが、彼女ら(彼ら)がそういった活動をしているようには見受けられません。結局、真面目に問題だと思ってなくて、叩けるものがあるから叩きたかっただけなんじゃないの?
*6:てか、それを意識してるなら、公的機関とか、まずTwitterやFacebook使えませんがな。気付いてないか見て見ぬふりしてるだけ。
*7:あるいは規模の経済によってもっと少額かもしれませんが