海ミハ車両区

宮原太聖(Miha)の雑記帳。おおむね週1回更新です。

「〇〇大学の研究」「〇〇学会の調査」の罠

 よく、テレビ番組(とくに健康番組)とかで、「〇〇大学の研究によると~」とか「〇〇学会の調査によると~」みたいな表現を見るかと思います。

 あまりに頻繁に出てくる表現なので、多くの視聴者は単純に「ふーん、〇〇大学の研究なのね」「〇〇学会の発表なのね」と受け入れていると思います。

 修士号持ち以上の人なら常識的に理解しているかと思いますが、実は、この、「〇〇大学の研究によると~」とか「〇〇学会の調査によると~」といった言い方、大変大きな問題をはらんでいて、思わぬ勘違いに繋がる危険性があります。

 

 

 まず、学術的な研究は、大学とか学会という単位で行われる事は、非常に稀です。まず無いと言っていいでしょう。
 少なくとも、私の分野(人文科学系)では聞いたことがありません。

 多くの場合、複数の研究者で一緒に研究するとするならば、研究グループと呼ばれる(所属を越えた)研究者同士の集まりとか、理系工学系であれば研究室とか、何か特殊な研究設備が必要ならその研究設備を持っている組織とか、そういう単位で動いています。
 そして、文系研究者の場合は、大概は、個人で研究しています。時たま、資料整理などに学生バイトを使う場合もあるかも知れませんが、史料を読んで、まとめて、分析するといった事は、何から何まで1人でやっています。

 大学や学会というのは、そういう研究者の所属というだけで、別に、大学や学会が何か研究をやっている訳ではないのです。

 

 そして、テレビで取り上げられるような「研究」「調査」が世の中に出るまでには、段取りというものがあります。分野によっても違いますが、だいたい、以下の感じです。

(1)研究者によって調査と分析が行われます。
(2)学会(学会主催の学術大会)で、口頭報告なりポスター発表という形で、報告が行われます。この時、他の研究者からの質疑も併せて行われます。
(3)学術雑誌(学会が作っている雑誌)への投稿が行われます。これは、投稿すれば載るというものではなく、学会に所属している他の研究者によるチェックが入る場合がほとんどです。もちろん、学会や学術雑誌によって、載りやすさ載りにくさ(チェックの緩さ厳しさ)は変わってきます。
(4)学術雑誌に掲載され、晴れて世に出ます。
(5)研究者によっては、学術雑誌に掲載された複数の論文をまとめて本として出版することもあります。書店に並んでるハードカバーの仰々しい本は、大概、この類です。あなたが大学で「教科書」として買わされる本も、大概これ。

 

 テレビ番組でこの手の表現が使われる場合、大抵は医療系の分野で、もしかしたら医療系などでは学会主導で研究活動が行われているのかも知れませんが、仮にそういった半ば封建的な状態ではないとするならば、「〇〇学会の調査」「〇〇学会の報告」といった表現のものは、恐らく、研究者あるいは研究グループがその学会で口頭報告なりポスター発表なりをした内容だと思われます。
 少なくとも私の分野では、学会報告のエントリー自体には何かしらのチェックが入る事はありませんから、たとえ内容が間違いだらけの滅茶苦茶なものであったとしても、報告自体はできてしまいます。もっとも、あまりにアレな報告をすると、報告後の質疑などの場で袋叩きに遭う訳ですが。
 つまり、「〇〇学会の調査」「〇〇学会の報告」といった表現が使われている場合は、最新の研究内容の可能性がある一方で、内容の妥当性が必ずしも担保されていない可能性もあります。もちろん、学会の学術雑誌に掲載されたものを「〇〇学会の報告によると~」と言っている場合も考えられますが……。
 そして、「〇〇大学の研究によると~」と言っている場合は、その研究を行った研究者が所属する大学を示しているだけで、学会で報告されたのか、論文化されたのかすらわかりません。

 ああ、そうそう、歴史系の番組で、「最新の学説で~」って表現もよく見ますが、史学の場合は、学会が非常に細分化しているので、「最新の学説」として紹介された内容を全ての研究者が知ってるとも限りませんし、同意してるとも限りません。そもそも、他の研究者からチェックが入ったのかすらも。

 

 じゃあ、何を信用したらいいのか。ある分野の中で、より会員数の多い学会の、「査読付き論文」は、適切なチェックが入っている可能性が極めて高いので、ある程度信用していいと思います。
 ……えっ? 「そんなもの、どこで見ればいいんだ?」って? いやだなぁ、あなたの目の前にある箱使って、J-STAGEにアクセスしたら、日本中のありとあらゆる学会誌の論文が読み放題ですヨ。

www.jstage.jst.go.jp

 医療系はたしかに読むのも難しいかも知れませんが、たとえば、あなたが鉄ヲタで、鉄道の研究を読みたいと思うなら、ぜひそれっぽいワードで検索をかけてみるといいと思います。オタクであれば読めます。読めなけりゃ一般人です。おめでとう。

 

 多くの人は、テレビ番組で「〇〇学会の報告では~」「〇〇大学の研究で~」といった表現を見た際、簡単に信じてしまうでしょう。
 テレビだからという信頼に、学会なり大学なりといった信頼できそうな名前が加わって、最強そうに見えるのは、とてもよくわかります。
 しかし、それは「権威に訴える論証」という誤謬(人間がよくやる勘違い)です。

 研究者だって人間です。間違えもします。テレビ番組を作ってる人も、学会で他人の研究をチェックしてる人も、そしてあなたも、等しく人間なのです。
 テレビ局や大学といった組織の名前が入ると、なんだか信用して良さそうな気持ちになるのはわかりますが、そういった組織だって、ただの人の集まりに過ぎません。あなたの住んでいる街がそうであるように。

 絶対的なものは、この世にありあません。仮に、大学や学会が本当に一体となって発表したとしても、その内容が絶対的に正しいという保証は、どこにもないのです。